2007/05/31(Thu)−JAPA事務局トピックス
日本航空706便事故 無罪判決確定に関する見解
2007年4月
JAPA法務委員会

 日本航空706便事故(1997年6月8日発生)裁判に於いて、機長の刑事過失責任を追及していた名古屋高等検察庁は、過日(2007年1月23日)、最高裁への上告を断念し、本件事故に対する機長の無罪が確定しました。

 はじめに、本件事故により亡くなられた被害者の方に深く哀悼の意をささげるとともに、被害にあわれた皆様に対し、心よりお悔やみ申し上げます。また同様の事故が再発しないよう本事故を風化させず、将来の航空安全に役立てていくことが、被害に遭われた方々への償いになると同時に社会的責務であると、航空関係者の一員として心に刻むものであります。

 この一連の裁判の中で、一審の名古屋地裁判決では、事故の結果を発生させるような機首の上下動が発生する事は予見不可能であること、操縦桿に過大な力をかけオーバーライドすることを禁止する規定は、高々度やシビア−タービュランスに限定されているという解釈が妥当であり、結果予見義務および結果回避義務違反もないとして、無罪の言い渡しを行ないました。
 一方、それを不服とした名古屋高検は控訴を申し立てましたが、名古屋高裁は、「減速のため意図的に操縦桿を強く引いて、過大な力を加えるオーバーライドにより急激な機首上げを生じさせ、被害者らの死傷に繋がった」という検察側主張を全面的に否定し、「機長の操縦操作に過失を認めることが出来ない」、「自動操縦装置の解除が本件旅客機の最初の急激な機種上げに与えた影響は不明である」とし、完全無罪の判決を言い渡しました。

 従来から当法務委員会は、「今日の航空機の運航は複雑な要因が相互に作用しあった高度なシステムによるものであるので、航空事故の発生に際し、機長らの行為についてそれが「不法」かつ「故意」に行われた行為でないかぎり、犯罪行為として刑事責任を追及することは合理的でなく、ひいては航空事故の再発防止の障害となりかねない」との見解を持っており、もちろん本事故を精査しても、このような見解が妥当なことは言うまでもありません。
 すなわち名古屋地裁や名古屋高裁の無罪判決、さらに名古屋高検が「高裁判決に憲法違反や判例違反はなく上告理由は見当たらない」として上告を断念し、判決を確定させたことは、このような考え方を実証したこととも言え、今後の航空事故調査に少なからず良い影響をもたらすものとして歓迎するものです。

 しかしながら、今回の一連の裁判の中で事故調査報告書が準鑑定書として用いられたことは、国際民間航空条約の第13付属書5.12ある目的外使用に当たるとして一貫して反対して参りました。当事者に不利と思われる陳述が自らを裁く証拠となる可能性を否定できない調査のあり方は、事実の究明を最優先すべき事故調査に影響が出る懸念を払拭できず、同種事故の再発防止に支障を来たす恐れがあります。今後ともこの問題に重大な関心を持ち続け、航空の安全確保のために、わが国の法制度の改善に向けて更なる努力を行ってゆく所存です。

以 上